目に届いているのは平面の像だけ
目の奥に映る像は、いつも平面です。奥行きは映っていません。 それでも私たちが世界を立体として見られるのは、脳が平面の像から奥行きを推測しているからです。
推測に使う手がかりは、紙の上にも描けます。 だから平らな図でも、手がかりがそろうと、浮き出たりへこんだりして見えます。これが立体に見える錯視です。
脳が使う奥行きの手がかり
両目で見たときのずれ(立体視)のほかに、片目でも使える手がかりがたくさんあります。 紙や画面の錯視が使うのは、こちらの手がかりです。
| 手がかり | 脳の読み方 | 試せる図版 |
|---|---|---|
| 線遠近法 | 奥へ向かって狭まる線は、遠くへ続いている | ポンゾ錯視 |
| 陰影・影 | 影は物の形と光の向きを教える。影の中は暗くて当然 | 影と市松模様 |
| 形のゆがみ | 長方形が平行四辺形に映るのは、奥へ傾いているから | シェパード錯視(テーブル) |
| 重なり | 手前の物が奥の物を隠す | カニッツァの三角形 |
| 見かけの大きさ | 同じ物なら、小さく映る方が遠い | 月の錯視 |
手がかりがあるとき — 止められない立体
シェパード錯視(テーブル)では、2 つの天板はまったく同じ平行四辺形です。 それでも脚と厚みが描かれると、脳は天板を「奥へ傾いた長方形」として読み、細長いテーブルと幅の広いテーブルに見えます。
大事なのは、同じ形だと知っていても、見え方は直らないことです。 奥行きの推測は、考えるより先に自動で行われています。
影と市松模様も同じです。 影がかかっていると読んだ瞬間に、脳は影の分だけ明るさを補正します。そのため、同じ画素値のマスが違う明るさに見えます。
手がかりがないとき — 立体が入れ替わる
奥行きの手がかりを取り除くと、脳は答えを一つに決められなくなります。
どれも立体には見えるのに、どちら向きの立体かが決まりません。 立体に見えることと、奥行きの向きが決まることは別の仕事だと分かります。
「光は上から」の思い込み
陰影から凹凸を読むとき、脳は光が上から当たっていると仮定しがちです。 上が明るく下が暗い丸は出っ張りに、上が暗く下が明るい丸はへこみに見えやすくなります。
身近な例では、月のクレーターの写真を上下逆さまにすると、くぼみが山のように盛り上がって見えることがあります。 写真の中身は変わっていません。変わったのは、脳が仮定した光の向きとの関係だけです。
トリックアートの床絵が一点からしか効かない理由
体験型のトリックアートの床絵は、決まった一点から見たときだけ、正しい遠近になるように引き延ばして描かれています。 その位置からは、線遠近法と陰影の手がかりがそろい、床から物が飛び出して見えます。
位置をずらすと手がかりが崩れ、ゆがんだ絵に戻ります。 写真で撮るとよく効くのは、カメラが片目と同じで、両目のずれという強い手がかりを持たないからです。



